平野紗季子さんの語彙力のみがきかた。ポッドキャスト『味な副音声』をきいて

おもしろいことばを集めています。ことばえらびのセンスに注目している人のひとりに、フードエッセイストの平野紗季子さんがいます。
「おいしい」を言わなくてもそれ以上においしさが伝わる食レポ。ご自身のことばでしっかり話される姿、ほんわかした雰囲気と声も好きです。

「足腰の弱いシュークリームの感じ、最高ですね」

「山菜もバキバキに芽吹く季節になってきました」

「おおぶりな芋がどすどす入ってるコロッケ」

などなど、インパクトのある表現も刺さります。

ポッドキャスト「味な副音声」でお気に入りのエピソードに、ファンからの質問”平野さんの語彙力の源”について語る回があります。
以下は、エピソードを書き起こして一部校正したものです。

“わたしが思っているのは、まず、ことばにすることは食事を味わうことの次にくることではないかということです。だから、たぶんその食事自体をちゃんと味わえていないと、ことばにできるものも少なくなってくるかな、というか。
あとから何かうまいこと言おうと思っても、何を貼り付けても嘘っぽくなっちゃいます。
だから、食事にめちゃめちゃ真剣に向き合って、そこから何かを感じ取ることを結構意識してやっているかもしれません。

食べているときは本当に何でもいいので、自分でもそれが何なのかわからなくていいんですけど、たとえば、最高においしいビリヤニを食べているときにパッと「風だな」と思うんですよね。
でもそれでも全然止まらなくて、一瞬で食べちゃうんですよ。で、それを帰りながら、また行ったときとかに「なんで風だったんだろうな」とゆっくり解明していくんですよね。
そしたら店主が、このビリヤニはすごく空気を含ませて炊きあげることを大事にしているとかいう話をしてくれたりとか、たしかに湯気がのせて漂うスパイスのシナモンやカルダモン、さらにグレイビーやマトンの焦げたかんじ、パクチーなど、全てが合わさった空気を味わってもらうような食べ物なんだな、みたいなことがだんだんわかってきたりして、「そうか〜」と思うんです。

それが最終的に「スパイスをグレイビーの湯気に包まれたが最後、あとは神の風に乗るような食べ物だった」というような文章になっていったりするんですけど、だから多分最初の「風だな」という感覚がめっちゃ大事だったりして、それは一度きりその料理に向かい合っているときにしか感じられないものだったりするので、超全力で味わうことはひとつ大事なのかな、というふうに思ったりもします。”

ポッドキャスト『味な副音声』 第98回 100回直前記念 平野に聞きたいことある?何でも答えます〜①より ※書き起こしをもとに校正しました

インドのビリヤニ
ビリヤニはインドのお米料理。スパイスがきいておいしそう

平野さんの食に対する姿勢、「まずは感覚を大事にする」というところに、プロフェッショナルを感じ、共感しました。

わたしはデザインをするとき、「ストーリー性のある」とか「作り手の想い」とかよりも、まずは商品の品質を一番に伝えたいと思っています。
実際に使って、使い心地を気に入って、その上で、想いやストーリーも知ってもらえたら嬉しいです。

美術館の絵画にしても、いきなりキャプションを読むのではなくて、まずは絵をじっくりみて、気づいたことをことばにしてみる。

自分の感覚をいったんことばにすることから、自分なりの表現が生まれるのだと思います。